
INTERVIEW
02感覚的本能と深い思考をたぐり寄せる
コラージュアートの新たな起点。
INTERVIEW
01感覚的本能と
深い思考をたぐり寄せる
コラージュアートの
新たな起点。
コラージュアーティスト
Anna Kawahara
2017年からコラージュアーティストとして日本で活動を開始。「SPUR」「Oggi」「&ROSSI」などの雑誌をはじめ、〈Peach John〉やルミネ新宿などファッション分野でのコラボレーションを多数行う。古雑誌や色画用紙を使用した手作業のコラージュ作品は、懐かしさと新しさが織り交ぜられた独特な雰囲気を持つ。現在はスイスにある世界有数の美術学校「ECAL(ローザンヌ州立美術学校)」視覚芸術学部に在学中で、「記憶」をテーマにした作品を発表している。就学中の作品にてスカルプチャー・インスタレーション分野で才能のある学生へ送られる「FONDATION WALTER + EVE KENT賞(2023)」を受賞。
https://www.instagram.com/f_abricot.jp/

コラージュアートをやろうと思ったきっかけは?
小学生の頃からスクラッチブック(※)を作るのが好きで、その延長線上でやり始めたというのが私のコラージュアートの原点。スクラッチブックの素材となる“紙”を集めるのも長年の趣味で、新聞やフリーペーパーなどから気になる紙質、好きな色や柄、ビジュアルを見つけたらひたすら収集しています。大学時代にフランス留学していた時もそう。当時、あまりに多くの紙を集めてしまったので、それらを切り抜いて貼り合わせて一つの絵にしてみようと思い、本格的にコラージュアートを始めました。
※スクラッチブック:新聞・雑誌記事から写真やモチーフなどを切り抜き、それらのさまざまな素材を使って自由に貼り付けていく帳面
普段から「モノを捨てるより利活用したい。形を変えて何かに繋げたい」という思いがあるので、そういう思考がコラージュアートにも結びついているのかなと思います。使い終わった紙の切れ端も、それはそれで想像を超えるユニークな形になるんですよ。例えば、人物写真を切り抜いて残った部分が予期せぬ構成美を生み出すこともあり、作品のパーツとして面白かったりします。切れ端だからといって捨てるのではなく、着眼点を変えて、別の素材として活かしながら再構築することも意識していますね。

創作におけるテーマや、伝えたいメッセージはありますか?
今、その核となる部分を改めて深掘りしているところです。スイスの美術学校に通う理由にも繋がるのですが、コラージュアートは一般的に挿絵で使われることが多く、私の中でも明確なコンセプトを持つアートというより抽象的かつ感覚的なものとして捉えていました。「何かを作りたい!」と本能のまま手を動かし、制作の過程で新しい発想や構成が生まれ、最後に想像を超える作品が完成する。それがコラージュアートの醍醐味でもありますが、もう一歩踏み込んでコラージュアートを突き詰めようと思い、美術学校で視覚芸術(ファインアート)を学ぶことにしたのです。これまでの直感型の創作スタイルから、コンセプチュアルな創作スタイルへの新たな挑戦、ですね。近いようで乖離している「衝動的なアート」と「コンセプチュアルなアート」。この2つのアプローチを合わせてみたくて、そのやり方を探っている最中です。
ちなみにコンセプチュアルなアートでいうと、私は自分の身近なところから題材をピックアップしていきたい。フェミニストが増えた60年代頃から、女性としてのアートは例えば妊娠・出産など日常的なことにフォーカスする作品が目立つようになりましたが、そこには「個人的なことは政治的なこと」という理念があり、私もそれに共感しています。個人の大きな集合体が社会であるからこそ、個人的な思いや発言は社会に繋がるはず。だから、私の個人的な考えや思いを込めた作品が、誰かに疑問を投げかけたり、社会に引っ掛かりを与えたり、何かに気づくきっかけになれば嬉しいですね。

スイスを拠点にすることで、作品にいい影響はありますか?
スイスの風景や生活が作品に直接影響を与えているかと聞かれたら、あまりそう思わないのが正直なところ。強いて言えば、スイスは視界に入ってくる情報量が少ないところがいいなと感じます。看板や建物などが密集する場所だと気が散漫になって創作意欲を削がれるというか、考えごとに集中したいのにできない状態になっちゃうんですよ。でもスイスは自然に囲まれて景色の余白が大きいから、日頃疑問に思うことや気になることを深い部分まで考える時間を持ちやすく、移動中も遮断されることなく一人の世界に没入することができます。“自分と向き合う思考の時間”に集中しやすい、その生活環境が創作に適しているなと感じますね。
またヨーロッパで勉強して良かったのは、自分のアートに対する思考や創造性、アーティストとしての考え方を学べたこと、そして漠然とした思いを言語化できるようになったこと。言語化については頭の中を整理できますし、誰かに伝えるときもスムーズですよね。ヨーロッパでは作品を紹介する際に、「ここはこうで…」とディテールについて一つひとつ説明する慣習があります。逆に、鑑賞者の方から作品づくりの動機や背景について尋ねられることも多々。目に映る表層部分だけでなく、その奥にある背景や根底を理解すること。そのためにしっかりコミュニケーション(言語化)を行い、相手と通じるための“鍵”をこちらから渡すこと。その重要性もスイスを拠点にして気付けました。

JR博多シティ 2023年秋のキービジュアルを担当してみていかがでしたか?
「秋」という大テーマがあったので、洋服、小物、花などで、秋らしい色の組み合わせができたらと思いました。イエロー、ボルドー、パープルといったテーマカラーを大まかに決め、採用される洋服や小物を見ながらキュートに偏らないようにモードな印象に微調整していきましたね。
コラージュアートは基本的に手作業で行うので、デスク上のアナログな素材が大判印刷に画質的に対応できるか、最初は少し不安も。でも試行錯誤しながら解決策を見つけ、スイス・福岡間を遠隔でやりとりし、初めての試みも楽しく挑戦できました。作品の背景に布のパーツがありますが、あれは自宅で私が撮影したもの。当初はリボンも使う予定でしたが、布屋さんで見つけた布の切れ端をいくつも並べ、色の組み合わせにワクワクした思い出があります。青い花はスイスの山岳地帯に咲く野花で、オレンジの花はスイスの植物園で撮影しました。普段からコラージュに花の素材を取り入れることが多いのですが、花の影が波のような形を生み出すことがあり、そのモチーフがとても美しくて個人的に好きなパーツです。
一時帰国の際に完成形をJR博多シティの館内で目にし、純粋に嬉しかったですね。大きく印刷されるとやっぱり迫力があるじゃないですか。普段の作品の何十倍も大きくなると見え方や感じ方が変わりますし、家族や地元の友達から「すごいね!」と褒めてもらえたのも嬉しかったです。

これからチャレンジしたいこと
前述の通り、「衝動的(本能的)なアート」と「コンセプチュアルなアート」の融合を掘り下げていきたいです。今(一時帰国中の取材当時)は頭に浮かぶおぼろげなイメージを早く形にしたくて、一刻も早くスイスに戻りたい…! 今すぐにでも制作に取り掛かりたくてウズウズしています(笑)。
2024年夏の学校卒業後は、創作スタイルや考え方が似ている友人たちとアトリエを借りて、1年間創作活動に集中しようと思っています。コラージュアートとコンセプトアートを融合させて、作品を完成させた暁には、やっぱり日本で公開したいですね。なぜ日本なのか? それは帰国するたびに日本に対する疑問や不満が出てきて、それが創作のガソリンにもなっているからです。疑問の種から生まれる作品だからこそ、その起源となった日本で発表することに意義があると思うんです。日本とスイスの2拠点化ができたら最高ですね。
とはいえ、どんな場所であっても、自分と人との関わりの中で、自分はなぜこんな風に思うのだろう、相手はなぜこういう対応をとるのだろう、など身近な疑問を考え、解きほぐしながら、創作の肥やしにしていきたいです。視覚的に引き込ませるアートと、バックボーンを知ることでさらに面白さや関心が増すアート、この両面を持つ作品を手がけたいと思っています。

