大村 雪乃

INTERVIEW

01

丸シールアートに込めた、アートの民衆化。

現代アートの歴史に、新たな1ページを刻む。

INTERVIEW

01

丸シールアートに込めた、

アートの民衆化。

現代アートの歴史に、

新たな1ページを刻む。

PROFILE

現代美術家、丸シールアーティスト

YUKINO OHMURA

大村 雪乃

1988年生まれ、東京在住。多摩美術大学在学中に文房具の丸シールで夜景を表現する絵画を発表し、素材の意外性とビジュアルの美しさで2012年「Tokyo Midtown Award」にてオーディエンス賞を受賞。以降美術家として活動を開始し、国内の様々な美術館で大型個展を開催し、精力的に作品を発表。また作品制作以外にも、シールを貼るだけで誰でも制作に参加できる観客参加型のワークショップの監修や、MBS 毎日放送『プレバト!!』では丸シールアート査定の先生としても出演。2023年春にJR博多シティのメインビジュアルを飾り、同年6月に初の著作『Let’s Try!みんなのシールアートブック』を刊行。
https://yukino-art.tumblr.com/profile

大村 雪乃

今の時代に求められるアートとは?

情報社会で今求められているものといえば正確性、高い技術、効率化もそうですよね。アートはその対極にあり、またアートの素晴らしさは人間の想像を超えた瞬間にあると思います。そして、「え、そういうことする?」みたいな驚きや感動を投げかけるのがアーティストの役割なのではないかなと。

これまでずっと感じてきたことですが、絵画の評価基準は“美しく絵が描ける”“技術的に優れている”など、「上手く描くこと」をゴールにしがち。学校教育は特にそうですよね。私はそこに違和感があるんです。技術的に上手いかどうかより、人間としてどういう表現をするか。「その人らしさ」が感じられる作品に魅力を感じますし、そういう作品が後世に残っていくのではないかと思います。

特に今は、AIを使ってリアルで可愛い絵を簡単に自動生成できる時代。それが当たり前になればなるほど、正確に上手く描くことの無意味さを感じてしまう。だとすると余計に、正確さよりも「その人にしか描けないもの」に惹かれるし、価値がある。世の中的にもそんな時代に入ってきていると感じますね。

大村 雪乃

画材として 「丸シール」を選ぶ理由とは?

アートに対するハードルを下げたい、そして、もっと身近なところでアートを楽しんでもらいたいから。これは、前述の「上手く描くこと」じゃなく「どんな表現をするか」という考え方にシフトしてほしいという、世間一般への思いにもつながりますね。シールなら誰でも気軽に貼れて「これなら私にもできる!」と感じられるし、デッサンのスキルがなくてもいい、油絵を学ばなくてもいいという発見にもなる。多くの方に「シールでもアートを表現できるんだ!」と体感してもらいたいです。

また個人的な裏テーマでいうと、「素材(画材)に対する挑戦」もあります。“丸シールアート”といったジャンルさえなくしたいと考えているんです(笑)。日本の美術業界はそれこそ日展や二科展でも、日本画、洋画、彫刻など、素材よってアートをジャンル分けし、美術大学でも油絵や彫刻など素材ごとに専攻が分けられます。でも、素材で分類することに果たして意味があるのかな。私は美大で「現代アートはどんな素材でも挑戦することに意味がある」と教わり、今もどの素材を使って表現するかではなく、何を表現したいかが一番重要だと思っています。

私が丸シールアートという表現で、大きな美術館で大規模な展覧会をたくさん開き、「これが現代アートです」と示していけば、従来の支持体(※)のカテゴライズや作品ジャンルを曖昧にさせて、どんな素材で表現してもいいという風潮をつくれるはず。一人でも多くの人がアートに挑戦するきっかけになればいいなと思います。

※支持体とは、塗膜を支える面を構成する物質のこと。絵画ではキャンバスや紙、彫刻では木や銅などを指す。

大村 雪乃

丸シールならではの面白さとは、どんな部分?

リアリティのある描写をアナログの丸シールでどこまで表現できるか。これが難しくもあり、面白いと感じる部分。また、丸シールならではのクールさも魅力的だと感じていて。例えば、絵画を制作する中で「構図」「見え方」「表現力」といった構成美を何度も突きつめる過程があるのですが、油絵であればマチエールが盛り上がったり、水彩なら滲んだり、素材の重なりが表現の深みとして表に出ますよね。私も下絵の段階で延々と格闘しているんですけど、その苦労の痕跡が丸シールになった途端スッと全て消え去るんです…! この努力を表に出さない感じがとても好きで、かっこいいなとも感じますね。

人を唸らせるような作品を作るためにはそれ相応の技術と鍛錬が必要です。その経験を持つ人や有識者であれば、一見さらさらっと描かれた一筆であってもそれが適当に描かれたものではないとわかるもの。丸シールアートも同様に、作品づくりにおける汗水の痕跡が表面上消えても、裏打ちされた構成美がきっと伝わると信じています。

大村 雪乃

制作を続ける中での モチベーションは?

私が美大出身だからでしょうね。美術業界の閉鎖的な環境や体質をこれまでたくさん見てきました。業界人だけが楽しめる展覧会や小難しいインスタレーションがどれだけ行われても、かたやそれらに全く交わることのない1億何千万人の一般層がいるという現実も。この美術業界と一般層の乖離をどうにかしたくて、業界に一石を投じたい。めざすは「アートの民衆化」です。

特に、現代アートをもっと一般層に落としていきたくて。そのためには作品に表層的な接点を設け、根っこには美術の歴史や原理を宿しておくことが大切。美術の勉強をしてきた者だからこそ、美術業界と一般層、両方の立場を理解し、双方に提供する仕事のあり方ができたらと日々取り組んでいます。

現代アートの着地点は、長く続いてきた美術の歴史の新たなページをめくることだと思います。過去の画家がどんな作品をつくってきたとか、どういう作品が次の時代に残るのか。それを自分の中で検証し、研究する。誰が何をやったかで美術の歴史も変わるので、私も作品を通して新たな価値を示し、従来の固定観念を変え、新たなページをめくっていきたい。そう思いながら制作に向き合っています。

大村 雪乃

これからチャレンジしたいこと

丸シールアートの仕事がとても楽しく、いろんな場所でたくさんの方々と関わりながら作品を作り続けてきましたが、これからは“潜る時間”も必要だと思っています。過去の画家やアーティストを今以上に研究して、「私が本当に表現したいものは?」「もっと違う表現ができるんじゃないか?」と可能性を探りながら鍛錬し、やりたい表現について掘り下げていきたいです。

その思いの根底には、もっと奥行きのある表現をしなければという危機感がありますね。本当にすばらしい作品を目の当たりにすると、アーティストとして同じ枠にいていいのだろうかと自問自答したり、襟を正す気持ちになったり。もしも私が日本美術史の1ページを飾るとなれば、錚々たる作家さんと同じ土俵に立つわけで。そう考えると、師と仰ぐ画家の方々に認められるレベルに到達しなきゃならないし、仕事のペースを落としてでも勉強して鍛錬する時間をつくりたいと思っています。そしてもっと実直に、自分のやりたいこと、突き詰めたいことに集中して取り組んでいきたいですね。

大村 雪乃
大村 雪乃

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